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『投資家が「お金」よりも大切にしていること』新刊超速レビュー

投資家が「お金」よりも大切にしていること (星海社新書)

投資家が「お金」よりも大切にしていること (星海社新書)

  • 作者:藤野 英人
  • 出版社:講談社
  • 発売日: 2013-02-26


日本人は世界一お金が好きな民族である。絶対に損はしたくない。そういう思いが強く、投資には手を出さず、預貯金をしている人が圧倒的に多い。金融資産の割合でいうと55%が預貯金に回されている。これは他の先進国からみても圧倒的に高い数字だ。

また日本人は世界一ケチな民族である。日本人は寄付をしない。先進国は家計の2~3%を寄付しているが、日本にいたってはたったの0.08%しか寄付をしていないそうだ。震災が起きた年には寄付額は倍増したが、それでもたったの0.16%。先進国の寄付額には遠く及ばない。

このように日本人は困っている人のために寄付もしなければ、社会にお金を回すための投資もしない。結局のところ、自分のお金を守ることしか考えていないのである。人のためにはお金を使いたくない。人よりも信じられるのはお金だけ。そんな国民性が見てとれる。

さらに「お金儲け」=悪という認識があるからやっかいである。儲けるということに対しては、ネガティブなイメージを持っている人が多い。とくに投資や不労所得で儲けると汗水たらして働いていないと批判されたりもする。

このあたりはとても矛盾している。お金は好きだし、心の底では儲けたいと思っているのに公には口にはできない。言いたいことも言えないこんな世の中じゃ……ポイズン。の状態である。

その考え方の原因になっているのが「清貧の思想」だという。清貧の思想は「理念に生きるために、あえて豊かな生活を拒否する」という考え方だが、これがいつのまにか「豊かになるためには、理念を捨てて汚れなくてはいけない」という考え方に変わってしまったというのだ。

そこで著者は「清豊の思想」を提唱している。清く豊かに生きることこそが世の中をいい方向に変えていくというのだ。

次は経済の話をしよう。著者は経済を「お金を通してみんなの幸せを考えること」と定義している。どのように行動すれば「みんなの幸せ」に貢献できるのだろうか?著者のアドバイスはよい消費者になることだという。

過剰なサービスを求める消費者が、ブラック企業を生み出しているという。消費活動は、必ず誰かの生産活動につながっている。需要があって供給が生まれる。逆はない。つまり過剰なサービスを求めるあまり、企業はそれに対応せざるをえなくなっている。そのしわ寄せが従業員にいき、結果としてブラック企業が生まれる。この負のスパイラルは断ち切らなくてはならない。そのためにも、一人ひとりがよい消費者になることは重要だ。

また消費活動は社会貢献であるという観点から考えると、消費をすることは素敵な商品やサービスを提供してくれている会社や従業員を応援する行為と同義である。世の中はみんなが使ったお金で成り立っている。つまり消費をするということは社会を創造することなのだ。

正直なところこの本がHONZむきの本かどうか少し疑問はある。しかし、とても素晴らしい本だったので、ぜひ紹介したいと思いこのレビューを書いた。私はこの本を読んだことで、お金や消費に対する認識が変わった。

もっとお金の使い方に自覚的になろうと思ったし、より自覚的に行動しなくてはいけないと感じた。いまこのタイミングでこの本を読むことができて、本当に良かったと思っている。お金について考えることは、まさに人生を考えること。あなたもこの本を読んでお金と真剣に向き合ってみてはどうだろうか?

『MENS FASHIONS BIBLE』男性が求めるスタイルとストーリー

MEN'S FASHION BIBLE -男の定番51アイテム

MEN'S FASHION BIBLE -男の定番51アイテム

  • 作者:ジョシュ・シムズ
  • 出版社:青幻舎
  • 発売日: 2013-01-26


H&Mなどのファストファッションを使えば、1万円でフルコーディネートができる時代に、1着の服に数十万をかけるような物好きな人が世の中には存在する。私もそんな物好きの一人だ。洋服にとりつかれた者の多くは、一般の人からすれば金銭感覚が狂っている。なぜそんな高いものを買うのか?ファッションに興味がない人には理解不能だろう。なぜかと聞かれたら、こう答えるしかない。そこに服があるから……。コムデギャルソンのデザイナーである川久保玲は、このように表現している。

“いい物には人の手も時間も努力も必要だからどうしても高くなる。いい物は高いという価値観も残って欲しいのです。”(朝日デジタルより)


いい物は高い。これは事実である。しかし高いものというのは、大切に扱うから長持ちするのも確かだ。最先端のモードでない限りは、10年着ていてもまったく古びないものもある。例えばバーバリーのトレンチコート。これなどはきちんと手入れさえすれば、一生着ることが可能だ。

バーバリーのトレンチコートは定番である。これさえおさえておけば、まず間違いないというアイテムのことを定番と呼ぶ。メンズファッションにはこういったモノが非常に多い。なぜならメンズファッションの流行は、ディティールのみに取り入れられ、それが全体で表現されることはないからだ。この本の著者はその様子をこう表現している。

“メンズの流行スタイルは新しい楽譜ではなく、聞き覚えのある有名なメロディのバリエーションにすぎないのだ。”


うまい例えである。実はメンズファッションの大半は、容認される配色、標準となるシルエットなど、1世紀以上にわたって見た目はほぼ同じままなのである。つまり定番のファッションは色あせることがないということだ。この本ではそんなアイテムを51個紹介している。

定番は基本と言い換えてもいいだろう。基本をおさえることはなにごとでも大事である。洋服に関していえば、サイズさえあっていれば、定番のものだけでも十分におしゃれなコーディネートができる。リーバイスのジーンズにフレッドペリーのポロシャツ、ドクターマーチンのブーツを合わせたらスキンヘッズやパンクのスタイルになるし、リーバイスのジーンズにヘインズのTシャツ、ショットのライダースジャケットを着たら『乱暴者』のマーロン・ブランドのスタイルになる。

サックスーツの上にフィッシュテイルパーカーを着たらモッズのスタイルに。ジーンズにボーダーのTシャツ、上にピーコートを羽織ればプレッピーや渋カジといったスタイルに、パッと思い浮かぶだけでも定番だけでこれだけのスタイルが楽しめてしまう。つまり定番のアイテムがあれば十分なのだ。

そして、それらのアイテムのルーツとなるブランドがある。ジーンズならリーバイス、ポロシャツなら、ラコステやフレッドペリーといったものだ。他にもトレンチコートならバーバリーやアクアスキュータム、ボタンダウンシャツならブルックスブラザーズ、バスケットボールシューズならコンバース、ダッフルコートならグローバーオールなどがそうだ。

こういった定番アイテムはユニクロなどに比べれば値が張るが、流行に左右されないのでけっして色褪せることはない。ファストファッションで使い捨ての服を買うよりも、こういったものを長く着る。そのほうが長い目で見たら、経済的にもお得だと思うのだがどうだろうか?

この本にはその定番アイテムにまつわるストーリーがたくさん描かれている。男というものはそういったストーリーには目がないものだ。それらのストーリーを読んで、その服のルーツやエピソードを知り、ぜひとも好奇心をみたしてほしい。

これを読めば「ライダースジャケットが広まったのは、映画『乱暴者』でマーロン・ブランドが着たからだ」とか、ラコステや、フレッドペリーはテニス選手の名前だとか、スーツをはじめ、メンズファッションのルーツのほとんどが軍服にあるといった洋服に関するうんちくが、いくつも語れるようになるだろう。

またファッションにあまり興味がないという人には、ファッションの教科書がわりに読んでほしい。ここで紹介されているブランドのアイテムはまず間違いない。さらにファッション好きの人からすると、こいつわかってるな!という感じになること請け合いである。

最後にとあるデザイナーの言葉を引用してレビューを終えるとしよう。

「女性はファッションに夢中になり、男性はスタイルに心を奪われる。スタイルは永遠のものだ」
ドメニコ・ドルチェ(ドルチェ&ガッバーナ)


男性が求めるスタイルとストーリーがこの1冊にはある。


かっこよさにセンスは不要だそうだ。定番にもセンスは不要である(サイズ感だけには注意)鈴木葉月のレビューはこちら

Savile Row(サヴィル・ロウ) A Glimpse into the World of English Tailoring

Savile Row(サヴィル・ロウ) A Glimpse into the World of English Tailoring

  • 作者:長谷川 喜美
  • 出版社:万来舎
  • 発売日: 2012-07-13

メンズファッションの基本、スーツを知る上で参考になる本。手前味噌ながら私の書いた過去のレビュー

『機械との競争』テクノロジー失業の時代が迫っている

機械との競争

機械との競争

  • 作者:エリク・ブリニョルフソンMITスローンスクール経済学教授),アンドリュー・マカフィー(MITスローンスクール)
  • 出版社:日経BP社
  • 発売日: 2013-02-07


2013年のベスト装丁賞はこの本で決まり!表紙やデザインも美しいけれど、この本は写真で見るよりも、実際に手にとってもらったほうが、より素晴らしさがわかるだろう。写真ではわからないと思うが、カバーと本体の両方に凹凸があるのだ。カバーの一部に凹凸がある本はよくみかける。しかしカバーを外したとき、本体にまで凹凸がある本はあまりみたことがない。

この本にいたっては、背表紙にまで凹凸があって驚いた。ぜひ店頭で手にとって造本の素晴らしさを体感してほしい。これが本棚にあったらかっこいいと思う。それだけでも買う価値あるのではないだろうか?家の本棚では面陳(表紙をみせて陳列する方法)にして置いておきたい。と、つい装丁の素晴らしさを力説してしまった。

装丁も素晴らしいが、内容もまた刺激的なのである。この本では情報技術が雇用、技能、賃金、経済に及ぼす影響が論じられている。中心となるトピックは景気が回復しても、失業者が職を見つけられないという問題である。新規の雇用がいくら発生しても、それでは人口の増加に追いつかないというのだ。現在の倍以上のペースで雇用が生まれたとしても、雇用のギャップが埋まるのは2033年になるという。

アメリカの景気は回復基調にあり、GDPも増加傾向にある。企業の設備投資も堅調に増えレイオフも減った。しかし企業の新規雇用は手控えられたままだ。新しい機械は買ったけれど、新しい人間は雇おうとしていない。これがアメリカの現状である。

ではいったい仕事はどこへいってしまったのだろう?この問題に対して専門家は、景気循環説、停滯説、雇用の喪失説の3つの説をあげている。

まず景気循環説。これは単に景気の回復はまだ不十分で、新規雇用に至っていないだけだという説である。クルーグマンはこの説の支持者で「あらゆるデータは、アメリカの失業率が高いのは需要が不十分だからだということを示している」と言っている。景気循環の過程に過ぎず、雇用がまだ生まれる状況になっていないというのだ。

次に停滞説。これは現在の苦境は循環の一局面ではなく、停滞が原因だとする説である。この説でいう「停滞」とはイノベーションを生みだす能力や、生産性を高める能力の長期的な低迷を意味する。タイラー・コーエンの『大停滞』に詳しい。大不況の影響が主因ではなく、経済を進歩させるような新しい発想の生まれるペースが鈍化したことが根本的な原因であるというのだ。

最期は雇用の喪失説である。これは停滞説とは逆で、技術の進歩が滞っているのではなく、速すぎることが原因であるという説である。この本の主題はこれである。この説の元になっているのはジェレミー・リフキンが1995年に発表した『大失業時代』という本だ。この本の中に書かれていた憂鬱な仮説を引用する。
「私たちは世界の歴史における新しい時代に突入している。それは、世界中の人にモノやサービスを供給するために必要とされる労働者の数が、どんどん減っていく時代である。(中略)いずれは高度なソフトウェア技術によって、文明は労働者がほとんどいない世界に近づいていくだろう。」

リフキンだけに限らず、雇用の喪失説を唱えてきたのはジョン・メイナード・ケインズ、ピーター・ドラッカー。そしてノーベル経済学賞を受賞しているワシーリー・レオンチェフなどがいる。テクノロジーが雇用を奪っていくというのだ。これによる経済的な影響は計り知れないが、現状ではこの事実はあまり認識されていないという。それで大丈夫なのだろうか?

テクノロジーの進化は今後、加速度的に進んでいくことが予想される。しかもそれは私たちが想像しているものを、はるかに凌駕するスピードになるだろう。その根拠となるのがムーアの法則とチェス盤の法則である。

ムーアの法則は最も安価な集積回路(IC)のトランジスタの数は12ヶ月ごとに倍になるという法則である。(現在では18ヶ月ごとに倍増するという法則が受け入れられている)

チェス盤の法則はチェスのマス目に1マス目は1粒、2マス目は2粒、3マス目は4粒と、前のマス目の倍の数の米粒を置いていくと、最終的には米粒の数は2の64乗マイナス1粒になるという話から来ており、指数関数的な増え方は人を欺くという法則である。

チェス盤の半分くらいまでは、米の山はそう多くはならない。しかし半分を過ぎたあたりから直感的にも狼狽するような増え方に転じるのだ。これをコンピューターの産業利用にあてはめてみるとおもしろい結果になる。

アメリカが設備投資の対象に情報技術を加えたのが1958年。これをIT元年とする。そこからムーアの法則で18ヶ月ごとに集積回路の密度が倍増していくとすると、ちょうどチェス盤の半分にくるのが2006年。IT元年から数えるとすでに40億倍になっている計算になる。2012年にはなんと640億倍になっている!それだけテクノロジーは進歩しているということだ。

指数関数的な進化が私たちを驚愕させるのはこれからである。テクノロジーの進化がコンピューターでは不可能だと思われていたことを、どんどん可能にしていく。それにより人間にしかできないということは減っている。それにより仕事をコンピューターに奪われるという事態が今後は増えていくかもしれない。こうして仕事がどんどんなくなっていく時代がすぐそこまでせまっている。そのときにどうしたらいいのか。その解決策はこの本に書かれているので、ぜひ自分の目で確かめてほしい。

追伸 この本の原題はRace against the machineという。これって確実にRage against the machineから取っているよね。ということでまったく関係ないが、最後にRage against the machineの曲を貼り付けてレビューを締めたいとおもう。

[youtube]http://youtu.be/bWXazVhlyxQ [/youtube]
Rage against the machine : killing in the name

『世界基準で夢をかなえる私の勉強法』新刊超速レビュー

世界基準で夢をかなえる私の勉強法

世界基準で夢をかなえる私の勉強法

  • 作者:北川 智子
  • 出版社:幻冬舎
  • 発売日: 2013-02-14


『ハーバード白熱日本史教室』が7.5万部を超えるベストセラーとなった北川智子さんの最新刊。彼女が海外で学んだ経験をまとめた本である。勉強法というタイトルではあるが、すぐに使えるようなスキルも載ってはいるが、それよりはHONZの読者のように、本を読むことで知や教養を得ることが楽しくてしょうがないといった人たちが読めば共感できるような内容である。いや、それだけではない、もしかするとあなたの中の勉強という概念がひっくり返るかもしれない。事実、自分の中では学ぶということについての考え方が、この本を読んで大きく変わってしまった。

彼女の経歴はとても不可思議でおもしろい。高校生のときにカナダへの短期語学留学したことがきっかけで、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学に入学。このとき彼女はTOEFLの点数が全く足りなく、ホームステイ先で勉強をはじめたが、途中ですっぱりとそれをやめてしまう。代わりにホームステイ先で家族と会話をし、子供に絵本の読み聞かせをした。それが結果として英語の学習となり、無事大学に合格。無理して勉強をするより、現地でなるようになれ!のほうが英語の勉強はうまくいくらしい。

大学では数学と生命科学を専攻。同大学院ではアジア研究の修士課程を修了。って専攻は理系で修士は文系って、大学ではこういうのよくあるのかな?さらに、プリンストン大学では日本中世史と、中世数学史で博士号を取得。卒業後はハーバード大学でカッレッジフェローとして、3年間教鞭をとり、現在はケンブリッジニーダム研究所に籍をおいている。

カナダ→アメリカ→イギリスと本当に素晴らしいキャリアの持ち主だと思う。彼女の勉強に関して気になるのが、文系と理系といった概念がまったくもってないことである。自分が学びたいと思ったものを学んでいる。文系、理系という枠は本来考える必要がないのかもしれない。というか、これこそが正しい学び方なのかもしれない。

“時を重ねても、自分の中に残ること、それが勉強の成果であり、自分を形づくるすべてなのだ。”


“そもそも勉強とは、基本的に自分のできることを伸ばしていくためのものである。できないことを無理して引っ張り上げようとするのは、ジャンプが得意でない人にバレーのアタッカーを任せたり、背が低い人にバスケットでダンクシュートをさせたりしようと考えるのと同じだ”


どちらも本文から引いた言葉である。学ぶということに関して、自分は固定観念に囚われすぎていたのかもしれない。好きこそものの上手なれではないが、勉強というものはやりたいことをやりたいようにやればいいのではないか?この本を読むとそんな気がしてくる。そういえばHONZの代表である成毛眞も『勉強上手』の中で同様の主張をしていた。努力が必要な勉強など本当は必要ない。自分の好きなこと得意なことをやっていれば、努力は必要ない。たしかそのようなことを言っていたはずだ。

勉強というものは自分の好きな事や、興味のあることを好きなように、やっていくのが一番なのではないだろうか?本著では彼女の学習法もいくつか紹介されていたが、それらは自分の能力ではマネできそうもなかった。しかし彼女の勉強というものについての考え方にはとても共感ができるし、こういう考え方であれば、勉強というものはもっと楽しくできるようになるはずだ。

最期にこの本で一番好きな部分を引用してレビューを終えることにする。

“すべての物事の根底にあるものは、損得ではなくて「どれだけ自分らしいか」だと言う。(中略)そういう価値観で物事を見ていくと、だいたいの問題は解決する。そして、勉強は特別にそうとも言える。今格闘していることが、自分のためかどうか。自分のためでなければ、学べない。学んだふりに終わる。

何事も、自分らしいスタンスでいくと、どんな選択をしても後悔しない。だから自分らしくあることにこだわるのは、最重要、最優先すべきことである”


ハーバード白熱日本史教室 (新潮新書)

ハーバード白熱日本史教室 (新潮新書)

  • 作者:北川 智子
  • 出版社:新潮社
  • 発売日: 2012-05-17

ハーバードで教鞭をとることになった経緯と、そこで教えていた「レディ・サムライ」という講義について書かれた本。こんなふうに日本史を教えてもらったら、もっと日本史が好きになっていたと思う。

勉強上手

勉強上手

  • 作者:成毛 眞
  • 出版社:幻冬舎
  • 発売日: 2012-06-28

代表の勉強法本。無理をして、どうにかして学ぶ勉強ではなく、好きな事をして特技を伸ばす学習法。私はこの本から影響を受けまくっている。

『アップル 驚異のエクスペリエンス』暮らしを豊かにする



アップルの新製品が発表されると、発売の何日も前からアップルストアに並ぶ人々がいる。新しいiPadが発表になったときは、銀座のアップルストアの前にこたつがあって笑ったのを覚えている。宗教的といってもいいような、熱狂的なファンが、アップルにはたくさんついている。スティーブ・ジョブズが亡くなったときには、アップルストアの前にたくさんの花が添えられた。

英国の神経科学者が調べたところによると、アップルのファンにアップル製品の映像を見せたときと、信心深い人に神の映像をみせたときでは、同じ脳の部分が反応していたそうだ。ということは宗教的というのもあながち間違っていないのかもしれない。

熱狂的なファンがいるのは製品がクールだから。それだけだと思っている人も多いのではないだろうか?実はそうではない。目に見えない部分でもアップルは他社を圧倒している。それを一番体感できるのはアップルストアだろう。ジョブズはMacでパソコンに、iPodで携帯音楽プレーヤーに、iPhoneでは携帯電話にイノベーションを起こした。そしてアップルストアで小売業界にも大きなイノベーションを起こしたのだ。

ジョブズがアップルストアをオープンするといった際、ほとんどの人たちは成功をするわけがないと思っていた。しかし蓋を開けてみたら、アップルストアは例をみないほどの大成功をおさめた。売り場面積当たりの売上ではニューヨークのティファニーを抜いて世界で一番になったのである。

どうして成功したのだろうか?その秘密を解き明かしたのが本著作である。著者はベストセラーとなった『スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン』、『スティーブ・ジョブズ驚異のイノベーション』のカーマイン・ガロ。全2作もそうだったが、読んでいてワクワクさせるような文章は今回も健在だ。

アップルストアの成功の鍵は「暮らしを豊かにする」というビジョンにある。従業員の暮らしを豊かにすれば、従業員は熱心に働いてくれるようになり、顧客を豊かにすれば、顧客は取引を増やしてくれる。そしてファンになった人たちは、頼まなくてもあちこちで宣伝してくれるようになる。「店舗をどう変えれば顧客の暮らしを豊かにすることができるか」これを自問自答することが、小売業界で成功をおさめる鍵になるに違いない。

アップルストアのサービスは高級ホテルにも負けないレベルにある。ジョブズが参考にしたのは上質なサービスで有名なフォーシーズンズホテルである。そのサービスを元に、さらによいものに昇華したのがアップルでのサービスである。そのサービスを実現するためにアップルがやっていることはそう多くない。魅力的な人を雇い、フィードバックを与えて人を育てる。基本的にはこれだけだ。

魅力的な人とはどんな人か。一般の企業では頭の良さや知識といったところに重きをおく。しかしアップルは違う。顧客サービスでは頭の良さよりも、人当たりの良さを重視するのだ。だからアップルではMacを使ったことがないというような人が採用され、のちに社員になるということも少なくないという。

そしてなによりも大事なのは、どれだけ情熱を持っているかということである。情熱さえあれば学歴や職歴なんてどうでもいいそうだ。商品知識などは、研修であとからなんとでもなるからだ。ハーバード・ビジネス・レビューの研究に、素晴らしい職場をつくりたければ、人物で採用し、研修でスキルを身につけさせるのが一番だという話が紹介されていたという。アップルの考え方はこれに近い。
“業界や会社を本当に再活性化したければ、業界外に人材を求めなくてはならない”

これはアップルの話ではないのだが、アップルでも似たような考え方を持っていることは間違いない。魅力的な人が情熱を持って仕事をしている。これが強さの秘密なのだろう。小売業に限らず商売というものは最終的には人にいきつく。インターネットを使えば、ワンクリックでモノが買える時代に、わざわざ店まで出向いてモノを買うのは、それ相応のサービスや体験を顧客は求めているからだ。

しかし現状はどうだろう?小売業では人員が削減されて、人というものには、あまり意識をはらってないように見える。売場で店員が見当たらないということもよくあるだろう。それではダメなのだ。これからの時代、どのお店で買うか、誰から買うか?ということが重要になってくるはずだ。

小売業にかぎらずモノを売ってお金を得ている人。つまりほとんどすべての人にとってこの本は参考になる。サービスに限らず、人の育て方、見せ方、プレゼンなど様々なことがこの1冊から学べる。考えるべきは「どうすれば売れるのかではなく、顧客にどう感じて欲しいのか?」である。そこに「暮らしを豊かにする」というスパイスを振りかけたら、あなたもアップル流のエクスペリエンスが提供できるようになるかもしれない。
プロフィール

diesuk (ダイスケ)

Author:diesuk (ダイスケ)
丸の内にある本屋で遊ぶ野良猫書店員。文芸書が好きなビジネス書担当。HONZレビュアー。映画、音楽、ファッション、ライブにいくこと、おしゃれをすることが好き。かわいいもの、美しいもの、シンプルなもの、遊び心のあるものが好き。


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